Saint Bleu

Don't you ask yourself, ”Can this be?”

みえない力を信じていいの

※この記事は『シンフォニック=レイン』のクリア感想記事です。ネタバレを含むのでご注意ください。

 

先月、フォロワーさんからお勧めされて、ちょうどSwitchでセールしていたので買って、怒涛の勢いでクリアしました。音ゲー部分が難しくて指が死ぬかと思いましたが、オートプレイのおかげで救われました。雨の音やあたたかみのある背景など、心が落ち着くゲームでした。でもそんなに落ち着いてられなかった場面が多々ありました。

以下ルート・キャラごとに感想を。

 

○トルタルート

OPから「うわこの子がしんどい子か……」と思って、あまりにもクリス君を世話焼きする様子がかわいくて真っ先にルートに入ってしまった。練習曲の歌詞に込められた感情が重すぎて練習するたびにずしりとのし掛かる。ずっとクリス君の背中側で歌ってたのは、顔を見られたくなかったからなんだろうな。“好きよ キライよ いいえ愛してる”の部分がさ……相手を想いすぎると好きはある意味嫌いに近くなっていくんだよね……。
アルがいるのに、と苦悩するクリス君を見て、最初から想い人がいる状態で始まるギャルゲーの辛さを思い知る。でも辛いの好きです。二人とも、アルがいるからというのを言い訳にして、お互いずっと好きな気持ちに蓋をしてたよね。
最終CGを見て、入れ替わりはいつか来るかと思ってたけど、一つの可能性に気づいて戦慄する。アルとトルタが作中の時間軸には並んで登場したことがないことは気になっていたのだけど。「どこから話せばいいのかな……」もしかして……アルは存在しない?いやでも幼少期には二人が同時に存在してるっぽいし……いやそんなことあるか?と謎を残して終わる。トルタちゃんについての続きはal fineの項で。

 

○ファルルート

見た目がクドに似てるなあと思ってたけど大人のお姉さんって感じで全然違うなあという第一印象からのスタート。声がとても好きで、特に鼻濁音がめちゃめちゃ美しくて聞き惚れてしまう。好きだからなんでもやってしまう彼女と、何も積極的に取り組まない自分を比較して、だんだんと惹かれていくところ、描写がとても丁寧で引き込まれた。
それと平行して、またもや苦悩するクリス君の様子に「アルは存在するのか?」という疑問に苦悩する私。いや手紙来てるし……やっぱりいるんじゃない?と思い込む様子は今思うと手紙によってしかアルの存在を認知できないクリス君とシンクロしてましたね……。
そしてだんだんと距離が縮まっていく二人。ファルちゃんの部屋での練習でより近づいてウオーと思っていたら突然のアーシノ乱入!!!!なんだこれは……お前が好きなのはクリス君だと思ってたんだけど!?!?(そっち)クリス君のためにアーシノに近づいて籠絡したってことは、頼まれごとを引き受けていた他の講師とかも……?と勘ぐってしまう。ファルちゃんはなんかそれくらいしそうだと前半部分から思っていた。突然のことすぎてクリス君と大混乱しながら、でも「キタキターっ!!」と大歓喜する私がいた。ファルちゃんはがんばる優等生だけでは終わらない女だと思っていたよ。期待を裏切らないでいてくれてありがとう……。
打算と興味から始まったクリス君への感情は、たぶん自己愛の延長線上にあるんだろうけど、それが彼女の今までの生涯で経験した一番大きな愛だったのかもしれない。自分の枠の中へ初めて他人を入れたいと思ったのだから。電車の中で羽を分け合う場面、二人でないと私たちは飛べないって共依存関係だ……好き。ファルちゃんは自分のためにクリス君を好きになったはずがクリス君なしでは自分でいられなくなってしまったのかもしれない。でもそんな自分を認めて立っているところが美しいよね。アーシノもそこに惹かれたんだろう。
クリア後から見ると、クリス君の悲しみを引き出すためにあらゆる手段を選ばない人という可能性が浮上する彼女だが、それでもそこに執着せずにはいられない愛を貫いた彼女をいとおしいと思う。手段を選ばない自分を認めているところはトルタちゃんと逆だなあ。ファルルートの二人はずっと悲しみの音色の中で生きていくのだろうか。

 

 

○リセルート

ファルちゃんの衝撃が強かったのでリセちゃんの裏事情が最初からめちゃくちゃ気になる。おどおどしてる彼女が心を開くまでは時間がかかり、まずアンサンブルするまでがけっこうかかるパターン。やっと聞けたリセエンヌが名曲すぎて震えてしまった。そのまま指してるわけじゃないけど、リセエンヌって『女生徒』みたいな意味が含まれてたのかな。普通の学生の女の子、っていう……。
歌うのが好きなのに歌うのをためらうのは、親から禁止されてたからだったんだな……思い返せばリセちゃんの様子は虐待受けてる子どものそれだったな。しかしグラーヴェ酷い人物に見えて実は読めないみたいな感じ出してたけどいやあれはちょっと……。というかリセちゃんを家にかくまう前に通告しなくていいのか!?ピオーヴェの街には児相みたいな対応機関ないの!?せめてコーデル先生に相談するとかさ!!……というようなことばかり気になってハラハラする私。でも逃避行で一緒に暮らす二人は可愛かった。時代設定分からないけど、貴族の特権とか身分差が色濃くあるし、孤児院の設定からしてもあんまり福祉制度は発展してないかもなあと思った。
最後ボロボロになって帰ってきたリセちゃんやばかった。グラーヴェ完全に倒錯した愛情と憎悪が混ざってるよ……歌えないどころか喋れなくなってしまった様子からすると完全に精神壊すところまでやったよね……。トルタちゃんの「これって贖罪のつもりなの?」にぞくっとした。アルのことを踏まえて見ると、二重の意味が込められていると分かる。でも最後に、リセちゃん回復の兆し見えてよかった……この作品のことだから見えないまま終わるかと思ってた。


○al fine

fineが「終わり」の意味なのは知ってたけど、al fineで「終わりまで」なのは知らなかった。クリスの手紙から始まるシナリオ……そうかアルの視点か……と思ったら、や、やっぱりー!?手紙と作中で出会ったアルは全部トルタだったというわけだ……いや本気でそんなことになってるとは思わなかった。
雨はクリスの幻覚であることが発覚。トルタルートのカルツォーネの屋台で雨を感じたクリス君が「雨の街は昔の話だよ」って言われてたところで、もしかして……とは思ってたけど、これも本当にそんなことになってるとは思わなかった。確かにずーっと雨降ってたら洪水とか大変なことにならないのかな、とはけっこう心配してたけど。
クリス君を守るために他の人には刺々しいトルタちゃん。アーシノとの関係が地味に好きだったりする。アーシノは「必死すぎてかわいい」との評だったけど、わかる。彼はファルちゃんが好きなだけあるね。
クリスがアルへの気持ちを持ち続けられるように、と手紙を書き、パンを焼き、変装までするトルタ。そしてその度に悩み続ける様子が痛くて痛くて仕方なかった。気持ちが募って、アルとして自分へ近づくように差し向ける様子がいとおしい。けど全部トルタがアルを演じるなんてことは、クリスにいずれ真実と向き合わせることに必要なのだろうか?トルタちゃんの気持ちは、権利は……とモヤモヤしていたところをニンナさんが言ってくれてよかった。お父さんとお母さんは知ってたんだろうか。誰か大人が止めなくちゃいけなかったと思う。そのままピオーヴァにクリスと行かなければならなかったトルタには、アルについての苦しみを共有できる人がいなかったんだな。他ならぬクリスが忘れてしまったから。
トルタが寝ているときに、「泣いてるの?」「歌ってあげる」とフォーニの声。そこでもしかして……アル?と思って号泣しました。このゲーム中一番泣いた場面。トルタがアルのことも愛していたのと同じに、アルもトルタのことを愛していたことが分かる。トルタはアルも愛していたから、クリスへずっと手紙を書き続けた。眠っている彼女のことを忘れないために。彼女の代わりに約束を守るために。
クリス視点に戻り、真実を打ち明けるシーンはとてもドキドキして、けれどクリスが思ったよりも正面から受け止められていることにホッとした。ああ、きっとフォーニが雨の街で過ごした彼のことを支えてくれて、そして今目の前ではどんなことがあってもあなたを愛すると言ってくれるトルタがいるからなんだな……と。故郷に戻る列車で「やっと……止んだんだね」でまためちゃくちゃ泣いてしまった。
やっとたどり着いた故郷で、すでにアルは亡くなっていた。ちょっとこの結末は予想してなかった。けれど「ほっとしてる」という台詞に、ああ彼女は一人きりでずっと頑張ってきて、一人きりで眠る片割れの気持ちが誰よりも分かっていたんだ……と気持ちの深さを思う。EDに流れた『涙がほおを流れても』が素晴らしすぎて、でも感極まって泣くでもなく、しみじみと胸を押さえて泣いた。

いつか止む雨かもしれない
止まぬかもしれない
でもみえない力を信じていいの
いいの? …いいの

深い深い受容と赦しの歌だと思った。止むかもしれない、止まぬかもしれない、と言ってあげるところが優しくて誠実。“みえない力”は感情の力であったり、フォーニの存在そのものであったりするのかもしれない。“いいの いいの? …いいの”は、それぞれフォーニ、クリス、トルタが言っていると思うと胸に来るものがあった。三者三様、自分を赦すための話だったのかもしれない。EDテーマがそれを象徴している気がした。

 

 

○フォーニルート

フォーニがアルであるという種明かしをしないと、この話は終わらないというわけなんだな。というわけで冒頭から「思い出さなくてはいけない」という選択肢が登場。フォーニのことは、序盤のうちからなんとなくアルと関係があるんじゃないかとか、某Rewriteっていうゲームのせいで、アルが使役してる魔物なんじゃないかとか考えてみたりしていた(いやいや)。結局、なぜフォーニがアルだったのかという説明はなかったけど、臨死状態の奇跡というのはちょっとKanonを思い出した。彼女の死と引き換えにクリスは誰かと結ばれるというところも。フォーニルートは、クリスが誰にも寄りかかることなく一番近くにいたフォーニと前を向くことで自力でアルのことに向き合う場合の話なんだなと思った。だから、これはご褒美で、奇跡で、最後まで頑張ったあなたのためのハッピーエンドということなのかもしれない。ひぐらしでいう祭囃し編みたいな。もしかするとアルはフォーニとして精神が体から離れていたから、ずっと目覚められなかったのかもしれない。クリスがフォーニと一緒に故郷に帰ることが、彼女が生きる唯一の道なのかもしれない。もしかすると。

 

リアルタイムでプレイしていたときのメモも含めたので、かなり長くなりましたが、とても素敵なゲームでした。どの楽曲も好きで、フリープレイで延々と聴いています。『いつでも微笑みを』と『涙がほおを流れても』がお気に入り。そういえばクリスの雨の秘密を知っていたトルタとファルは、練習曲が雨関連なのが、いいですね。また2周目とかで伏線とか考えてみたりしたいです。人の感情の矢印が大きすぎる作品大好きなので、出会えて本当によかったです。ありがとうございました。