Saint Bleu

Don't you ask yourself, ”Can this be?”

『いつか解けるまで』後語り

3月の春コミからもうひと月以上過ぎたらしい。もう5月!!
ということで、春コミで発行したアレレイリタ小説本の後語りをします。
自分の備忘録も兼ねて、書いたとき考えてたこととか、本作るときにこだわったところとかの話をまとめた記録です。

本編はここで読めます↓

www.pixiv.net

xfolio.jp

 


○構想と原稿期間

アレレイリタ本出したい~とは数年前からうだうだ言ってて、アレクセイ生存ifで三人がどうしようもなくなったり三人が一緒に過ごしたりする話をいつか書こうとは決めてた。
結果的に、三人が一緒に過ごすまで8万字かかったのだった……。エピローグの三人の会話を実現させるために一冊できあがってしまった。生存ifってむずかしい。

2023年9月にプロットを書き、10月から本文を書き始めた。それで本編が書き上がったのが2024年2月初めなので、4、5か月くらい原稿に費やしたことになる。長い話書くときはだいたいこれくらいかかるんだけど、生活状況もあってだいぶハードなスケジュールだった……もうひと月早く始めたかった。次に長い話書くときはちゃんと半年以上確保しよう。


○タイトル『いつか解けるまで』

正式な読み方は一応「いつかほどけるまで」にしておいてるけど、「ほどける」「とける」どっちにもとれるようにしたいと思って決めた。
2021年に発行したアレシュ前提レイリタ本『結び目はほどけない』のことをだいぶ意識して作ったので、タイトルもそれを意識した。
タイトルを考えてたときのメモには、「氷、問い、鎖、紐」などの単語が書き連ねてあった。三人に関連するモチーフですね。

 


○表紙

画像はイメージです的な、本編の概念をなんとなくイメージした表紙絵。
アレクセイは湖に足を踏み入れて花片を受け止めているのか風に乗せて撒いているのか。レイヴンはアレクセイの背中側で屈み込んで花籠に視線を落としている。リタは片手に小さな花束を持ってそんな光景を見ている。
とりあえず水と花というモチーフを入れたかったのと、あまり凝った構図にしたくなかった(小説の表紙絵を自分で描くときはあんまり絵の力を強くしたくない&画力の問題!)ので、三人が横並びの絵になった。

今回初めてアナログ&水彩で表紙絵を描いたので、ちゃんと綺麗に印刷されるか心配だったけど、かなり満足な仕上がりになったのでよかった~。

タイトルをCMYK+シルバーという、箔押しじゃないけど箔押しっぽく見えるオプションを使って光らせました。あんまりキラキラになりすぎないでほしいな~と思ってたけど、マットPPのおかげもあってかちょうどいい光り方になってよかった。

ちなみにサークルカットの絵も水と花モチーフ。


○遊び紙

タントセレクト布目みずいろを使用。
精神的外伝だと思ってる既刊『結び目はほどけない』は同じ紙の赤を使ったので、今回は絶対同じ紙の色違いにしたかった。
しかし予約時に選択できず、印刷所に問い合わせたら、なんとみずいろの入荷は当面ないというではないか。
というわけで、印刷所さんに提案してもらい少数の特別発注で使わせてもらうことに。料金は多少割高になったが、まあこのくらいならいいか……という程度だったので、思い切ってこの紙じゃなきゃヤダってこだわってよかった。印刷所さんの対応に感謝!


 

○本編のはなし

章ごとに、書くとき考えてたことをずらずらと書き連ねる。

◇1、2

レイヴンは“流れに押し切られて”リタに心臓を診てもらうことになったという認識だけど、リタはレイヴンが倒れて目覚めなかった日をきっかけに自分の役目を強く意識したという二人の違い。レイヴンはたぶん、あの日のことは「あ~やらかしたな」くらいの感じなのかもしれない。命の危機に慣れすぎやろ。

本来、心臓魔導器という従来の魔導器からすれば考えられないトンデモ技術の結晶と、リタが一人で向き合うのってめちゃくちゃ無理難題だと思う。しかし魔導器は表向きすべて世界から消失したことになってるので、心臓魔導器のことを伝えられるのは信頼できる人間だけだろうし、誰かに協力を頼むことひとつにも油断ならないだろうな。
そういう、リタにかかる命のプレッシャーと重責を今回は強めに意識して書いた。

リタが作ってた飛行装置は、EDの絵で出てきてたものから着想。今作の重要アイテムである。

 

◇3

アレクセイがレイヴンに「殺してくれ」って言ったのは、ひとつは甘えから来るものだと思う。アレクセイもかつては同じ感情を向けられたのだし。
虚空の騎士団本部事件のとき「ようやく君の心境が理解できた」ってアレクセイは言ってたけど、たぶんダミュロンの「もう生きている意味がない」って感情はここに至って初めて思い知ったんじゃないだろうか。
そしてレイヴンは自分がかつて受けたことをアレクセイに返すしかない。終わらないループである。

アレクセイのことで頭がいっぱいで検診のことが頭から抜け落ちるレイヴンは、夢中になると日付感覚がなくなっちゃう(2で忙しくて検診の日がとっくに過ぎてたこと忘れてた)リタとも似てる。
「何が分かるんだ」は絶対絶対書きたかったシーンなのでウワーッ!って超テンション上がりながら腹痛に耐えながら書いた。こういうコミュニケーション失敗の場面、とても好き。

 

◇4

リタとユーリが気心知れた兄妹っぽい会話するのが好きなので、そういう感じ出したかった。
ユーリがレイヴンの話を聞いて「剣が鈍る」って思ったやつは、ヘラクレスで出るスキット『親衛隊について』。しかしアレクセイが生存していたこと、それに伴うレイヴンの様子を見たら、ユーリはきっとこう考えるんじゃないかと思った。罪と罰というテーマの代表選手であるユーリローウェル氏なので、そのへんについても話す役目をしてほしかった。あと「知りたくなかったことを知る」ことについても。

 

◇5

帝都を離れ、ドンの墓参りをし、パティちゃんに会い、デュークに遭遇し、どんどん自分を追い詰める方向に転がっていくレイヴンにめちゃくちゃ力入れました(好きなので……)。
すでに自分の人生を得て復讐の心を手放したパティちゃんの話を聞いて、逆にアレクセイと自分の罪深さを思い知るレイヴンの構図、なんだか皮肉だなと思いながら書いた。
パティちゃんはサイファーとの思い出をレイヴンの苦しみに近づくために語るけれど、レイヴンにとってそれは自分の空っぽな日々を突きつけられる行いになってしまった。

※余談
この辺、プロット段階ではパティちゃんと話してレイヴンが少し自分の本来の思いに気がつくシーンだったのだが、書いてたら知らないうちに真逆のシーンになってしまったのだった。ワハハ。

レイヴンは自分のつらさを抱えきれなくなるとすべてをなかったことにする癖があると思っている(自分を死人と思おうとする、虚空の「彼らはまだ絶望というものを知らない」などからの自解釈!)ので、あ~またそういう癖出てんな~フゥ~!みたいなテンションで書いてた。“そうしてすべてを手放して、楽になりたかった。”はお気に入りの文です。

 

◇6

ジュディスちゃんはヘルメス関係者として絶対登場してもらうつもりだったけど、書いてたらめっちゃノリノリでリタに協力してくれた。アレクセイがリタに対して何かしら思うところがあるだろうというのを察してるのは、パーティメンバーの中では唯一ジュディスちゃんだけだと思ってる。

リタは高いところ苦手なのに、この計画を実行したのはリタ・モルディオだな……と思う。普段の実験ではせいぜい樹の上から飛ぶくらいだっただろうし。

この場面のアレクセイは疲れている。ひたすら疲れている。かつて「理想のためなら敢えて罪人の烙印も背負わねばならぬ時もある」と言ったアレクセイがこんなに自嘲的なのは、自分がもう理想も誇りも力も失った敗者になり果てたことを知ったからなのかもしれない。
自分は闘争に敗れたと思ってるから、去らねばと思っている。
アレクセイはこの世界でもはや敗北したことを、枕元のレイヴンの話から悟った。自分がなすべきことはもはやどこにもないことも。

アレクセイが心臓魔導器の話に反応したのは、彼の行動原理の一つにレイヴンを生かしたいという意思があるだろうというのと、彼にとってヘルメスの存在が大きいからだと思われる。リタのこともずっと前から知ってただろうし。
アレクセイとヘルメスについては、本編にぜんぜん入れられなかったので後日譚に回した。

リタが城の塔から脱出したあと、手が震えてるところ個人的にお気に入りです。怖かったし疲れたよね。

 

◇7

最後の章だからって詰め込みすぎた!

3章の言い合い以降会ってなかったレイヴンとリタが久しぶりに会うシーンは、なんだかあんまり書いたことなかった空気感な気がして新鮮だった……。
ようやくこの章で三人が同じステージに揃う。三人いれば、二人とは違う空気や感情が生まれるよね~ということで、レイヴンのモヤモヤを大事にしながら進めた。

いつか「殺してくれ」と言い、自分は罪人として死ぬべきだと言うアレクセイに対して、レイヴンは「あなたが死ぬのなら一緒に死ぬ」と答える。アレクセイがレイヴンのことをどうあっても生かしたかったのだという思いを、時が経って理解したからこその言葉かもしれない。
一緒に死ぬ決断と同じ理屈で、一緒に生きる選択肢があるという話は、リタに心臓を診てもらうこと、皆に大事に心配されること、自分がアレクセイの身を案じて過ごしたこと、などなどが降り積もってようやっと出てきたんだなと。

罪や罰の話をたくさんするので、政治の話も少し入れようと思っていた今作。
ヨーデルが評議会に平民も入れて再編しようとする話はもう少し尺を割きたかったけど、本題から少しブレる気がしてあんまり深掘りできなかった。でも今回のアレクセイの裁定がその取り組みの取っ掛かりになればいいなと思う。

 

◇until the day

ここまで来るのに8万字使いました。三人の会話たのし~!!
アレクセイの夢の主なイメージは水と砂と炎で、冒頭とは少し変化したものを見ている。
一人で眠っているあいだももしかしたら見ていたのかもしれない。

 

◇灯かかげる旅人たちへ(後日譚)

後日譚で意識したミッション
・ヘルメスの話を入れる
・カロルくんを出す(本編に出てなかったからね!)

あとはアレクセイがなんだか頑張る話です。本編がマジメに生存ifやっちゃったので、ボーナスエピソード感も出したくて三人にわちゃわちゃしてもらった。

後日譚の舞台になったニフル湖はテルカ・リュミレース地図でいうとユウマンジュの南方あたりで、アレクセイの小屋はだいたい画像の辺りを想定してた。
この丘から平地までずっと森が続いているので、丘を下ったあたりがキャンプ地かな。ニフル湖はここから少し東にある、水のない湖です。ジェントルマンがたくさんいるよ。

画面上方の岩山の向こうがニフル湖

南の海の向こうにはテムザ山が見えるロケーションだよ

○総括というか所感

アレレイリタ三人の話書くぞ!と意気込んだら生存ifをマジメにやってしまった一冊。ホントはもうちょっと倫理レベルを下げる予定だったのだが、生存ifの倫理觀に焦点を当ててしまったのでできなかったね……。またいつか後日そういうのも書けたらいいな。

三人という関係性が本当に好きなんだけど、自分が三人の話を真剣に書こうとすると、近すぎる二人を一人がまなざし、間に立つことでお互いをちゃんと見られるようになる……みたいな話を書きがち。レイリタシュ本『ガードゥン・プールの朝』もそんな感じだった。
今回はほんと自分至上最高にハッピー健康的なアレレイリタができあがったと思ってます。(健康……????)

過去作『結び目はほどけない』を、アレクセイのいないアレレイリタと思って書いてたので、やっとアレクセイのいるアレレイリタを書けてほっと安心。アレクセイとレイヴンとリタは本当にいろんなものが詰まってると思ってるので噛めば噛むほど味が出てしまう。テルカ・リュミレースの歴史であり過去と未来の象徴であり喪失と再生を体現してる……。
また三人のわちゃっと話も書きたいし、どうしようもない話も書きたいです。




自己満足で作品への思いを語り倒してしまった。
こういう裏話的なことは秘しておくほうがもしかしたらカッコいいのかもしれないが、語らないことはウッカリと忘れてしまうので記録として残しておきます。自分の好きなもの楽しく書いたこと、ずっと覚えておきたいので。

もしここまで読んでくださったかたがいらっしゃれば、ありがとうございます。本も読んでくださった上でならなおのこと……200pもある本を最後まで読むだけで大変だったと思うのに……何か少しでも楽しんでもらえることがあったなら嬉しいです。

アレレイリタ最高!とか、三人について思ったことなど、自分以外の人の話がいつでも聞きたいので、いつでもこちらに待ってます!(強欲)

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